調剤薬局が週休3日制を導入する時に確認しておきたい5つのこと
薬剤師として保険薬局で10年間勤務後、社会保険労務士事務所を開業した鈴木氏によるコラムです。 |
塩野義製薬が来年度から、希望者は「週休3日制」で働ける制度を導入することがニュースになりました。大学院での勉強や資格所得などを通じた社員の能力アップを促し、自社でのイノベーションにつなげるのが目的とのことです。「週休3日制」が政府の指針である「骨太の方針」に盛り込まれたこともあり、導入を検討する会社がこれまで以上に増えています。しかし、「週休3日制」は思いつきで簡単に導入するべき制度ではありません。制度をしっかり運用し、「週休3日制」でも働きやすい職場を作るためには、導入に際してしっかりとした制度設計を行う必要があります。
そこで今回は、調剤薬局において「週休3日制」を導入する時に確認しておきたい5つのことを紹介いたします。
1、自社の経営理念・慣習と週休3日制が合っているかを確認する
これは調剤薬局に限らない話ですが、まず「週休3日制」の導入が自社に合っているのかを確認します。全ての会社には経営理念というものが存在します。わざわざ経営理念として掲げていなくても、経営者がどのような会社にしていきたいのか。会社の価値観とも言えるもの、それが会社の経営理念です。
また、これまでの経営によって培われてきた、会社の慣習のようなものもあります。
それらをまずは再確認します。そして、「週休3日制」が自社の経営理念・慣習に合っているのかを再度検討するのです。検討した上で、合っているのであれば導入を進めましょう。
現場で働く従業員というのは、どうしても変化を嫌います。
「今まで通りでも十分だったのに、どうして週休3日?」
これまでの会社に満足している従業員であれば、そう思ってしまっても仕方ありません。しかし、会社にも会社なりの考えがあって「週休3日制」を導入しようとしているはずです。その考えをしっかり現場で働く従業員に伝えるためにも、まずは自社の経営理念や慣習を改めて確認してみましょう。そして、
- 自社の経営理念や慣習に「週休3日制」がマッチしていること
- 「週休3日制」を導入することで、会社がより良くなること
「週休3日制」を導入する時には、こういったことを現場で働く従業員にしっかり伝えることが大切です。この作業をサボってしまうと、「週休3日制」は長続きしません。現場の理解が得られず、「週休3日制」という制度はあっても、実際には週休3日で働きにくい職場となってしまいます。そうならないためにも、この作業は必ず行いましょう。そうすることで、「週休3日制」を長続きさせることができます。
2、従業員の残業時間と有休の取得状況を確認する
次に確認しておきたいのが、現場で働く従業員の
- 残業時間
- 有休の取得状況
この2つです。
「週休3日制」を導入するということは、従業員の労働時間の総量を減らすということです。現状で有休が取得できず、長時間の残業で凌いでいるような会社が「週休3日制」を導入しても、更に労働環境を悪化させてしまいます。
ここ数年、薬局薬剤師の業務量は増大しています。一方で調剤報酬改定や薬価改定の影響で簡単に薬剤師数を増やすわけにもいかず、一人一人の薬剤師にかかる負担は増しています。長時間の残業でなんとか凌いでいる薬局も知っています。そういった薬局は「週休3日制」を導入する前に、まずは労働環境の改善が必要です。
もちろん、その改善のために「週休3日制」の薬剤師を新しく雇うというのであれば大賛成です。
また、合わせて確認しておきたいのが、
- 離職者数と離職理由
- 従業員の男女比率
- 平均勤続年数
- 正社員・パートタイマー・契約社員の割合
などの数値です。
これらの数値を確認しておくことで、「週休3日制」のルールを決めるときに役立ちます。また、「週休3日制」導入後の効果についても評価がしやすくなります。
3、「週休3日制」のパターンを確認する
以前の記事でも紹介しましたが、「週休3日制」は大きく3つのパターンに分けられます。
パターン1 | 休日を2日→3日に増やし、労働時間を減らし、給与も減らす |
パターン2 | 休日を2日→3日に増やし、労働時間を減らすが、給与は変えない |
パターン3 | 休日を2日→3日に増やすが、他の日の労働時間を増やし、給与は変えない |
「週休3日制」を導入するにあたっては、どのパターンにするかを確認しておく必要があります。
パターン1を導入している調剤薬局が一番多いですが、給与も減ってしまうことから、思っていたよりも「週休3日制」の希望者が少なくなる可能性もあります。
パターン2が従業員としては一番理想ですが、会社としてはなかなか決断に踏み切れないと思います。調剤薬局の現状の働き方を踏まえても、パターン2で導入するのは正直厳しいのではないでしょうか。
パターン3は変形労働時間制の導入ですぐに対応可能なので、制度設計の労力や現場の混乱は少なくなります。
変形労働時間制の種類
パターン3が変形労働時間制の導入ですぐに対応可能と書きましたが、パターン1や2と変形労働時間制を組み合わせても、より多様な働き方が可能です。
また、変形労働時間制にも
- 1ヶ月単位の変形労働時間制
- 1週間単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
の種類があり、数ヶ月間だけ変形労働時間制を導入することも可能です。最近では法改正もあり、フレックスタイム制の導入もしやすくなっています。
調剤薬局では1ヶ月単位の変形労働時間制を導入している会社が圧倒的に多いです。もちろん変形労働時間制を導入しなくても「週休3日制」の導入は可能ですが、この機会にあわせて検討してみてはいかがでしょうか。
~変形労働時間制の導入割合~厚生労働省が行った令和2年就労条件総合調査によると、変形労働時間制を導入している企業の割合は59.6%となっています。変形労働時間制の種類別(複数回答)にみると、1年単位の変形労働時間制を導入している企業が33.9%で一番多く、1ヶ月単位の変形労働時間制は23.9%、フレックスタイム制は6.1%となっています。
4、「週休3日制」の利用を認める従業員を確認する
「週休3日制」の利用を認める従業員も、事前に確認しておく必要があります。
- 全ての従業員なのか
- 今後新規で採用する従業員に限るのか、既存の従業員も含めるのか
- 過去の評価など条件を付けるのか
- 職種を限定するのか
- 部長等の役職者や、新卒入社の従業員も含まれるのか
調剤薬局は、制度があるなら「週休3日制」で働きたいと思っている従業員は多いです。「何であの人だけ?」と不満に思う従業員が出てこないよう、利用を認める従業員の条件をしっかり設定し、従業員に提示しておきましょう。
5、細かなルールを確認する
ここまで色々と確認してきましたが、最後に「週休3日制」導入後の細かなルールを確認しておきましょう。「週休3日制」を導入すると、これまでスムーズに進んでいたことでも「週休3日の人はどうする?」という話になることが想定されます。時間がない中でその都度結論を出すのも大変ですので、ある程度のことについては導入前に決めておくことをオススメします。
切替時期や制限期間
「週休3日制」と「週休2日制」を切り替えるタイミング、および、一度切り替えた従業員は最低何ヶ月間切り替えできない等の制限期間を設けるかどうかです。
切り替えのタイミングとしては、
- 年1回、昇給等に合わせたタイミング
- 毎月1回、月初のタイミング
などの選択肢があります。
切り替えのタイミングは多い方が、従業員は調整がしやすくなります。しかし会社としては管理が大変になってしまいます。
制限期間を設けるかどうかについては、制限期間が無ければ、従業員はリフレッシュ目的で1ヶ月だけ「週休3日制」を利用するといった選択もできます。しかしこれも、会社としてはかなり管理が大変になってしまいます。業務量を自分たちでは調節できない調剤薬局においては、切り替えのタイミングを年1回にするか、一定の制限期間を設けた方が良いと思います。
副業目的の利用
「週休3日制」の利用を希望する従業員には、様々な理由があります。
-
育児や介護
-
単純に働く時間を減らしたい
-
趣味やボランティア
-
資格取得などのリカレント教育
-
副業
この中で、副業目的の利用についてはしっかり考えておく必要があります。以前から全ての従業員に対して副業を認めているのであれば問題ありません。しかしこれまで副業を認めていなかった会社の場合、
-
「週休3日制」の従業員も副業は禁止
-
「週休3日制」の従業員にだけ副業を認める
-
これを機に全ての従業員に副業を認める
この3パターンから選択することになると思います。私としては、せっかく「週休3日制」を導入して多様な働き方を認めるわけなので、少なくとも「週休3日制」を利用する従業員に対しては副業も認めた方が良いと考えています。しかし副業を認めると、副業時間も含めた労働時間の管理が必要になるなど、会社の労力が大きくなってしまいます。ですので、副業目的の「週休3日制」を認めるかどうか、もし認めるのであれば、副業に関する運用ルールをどうするかまで、この段階で確認しておいた方が良いでしょう。
評価
「週休3日制」を導入する場合、「週休3日制」を利用する従業員の評価をどのようにするかも確認が必要です。労働時間と給与のパターンが『パターン3:休日を2日→3日に増やすが、他の日の労働時間を増やし、給与は変えない』であれば問題ありません。しかしそうでない場合には検討が必要となります。というのも、調剤薬局が労働集約型産業であることを考えると、会社に対する貢献は、通常の正社員の方が労働時間に比例して高くなるからです。しかし「週休3日制」を利用していることで評価が下がってしまうと、その従業員のモチベーションは下がってしまいます。
そうしないための方法としては、評価の段階では通常の正社員と同様に行い、昇給の段階で、通常の正社員が週40時間のところを週32時間しか働いていないなら、昇給額も4/5とするなどの方法があります。
残業
「週休3日制」を導入する場合、残業の有無も確認しておく必要があります。例えばパートタイマーでの働き方を選択してきた従事者の中には、正社員よりも残業を求められないという理由で選択してきた人たちがいます。小さな子供のいる従業員なんかは特にそうですよね。そういった従業員は、「週休3日制」を選択すると正社員同様に残業が求められるのであれば、なかなか「週休3日制」を選択しにくくなってしまいます。一方で、括りとしては正社員になるわけですから、「週休3日の従業員は残業無し」として特別扱いするのもどうなのでしょうか。他の従業員から不満が出るかもしれません。
また忘れてはいけないのが、「週休3日制」を選択する従業員の中には残業が可能な従業員もいるということです。残業が可能にも関わらず「週休3日の従業員は残業無し」というルールのせいで残業ができないというのは、現場としてはなかなかストレスがたまる状況だと思います。ですので、「週休3日制」の従業員の残業可否については会社でしっかり検討しておきましょう。場合によって、「週休3日制」を利用する個人個人で選択可能としても良いと思います。
手当
「週休3日制」を導入する場合、各種手当についても労働日数や労働時間と比例させるのか、確認しておく必要があります。週あたりの労働時間が4/5になるとしたら、手当も4/5にするのかどうかということです。薬剤師手当であれば薬剤師業務に関連した手当ですから、同じく4/5にしても良いかもしれません。しかし住宅手当はどうでしょうか。家族手当はどうでしょうか。もしそういった手当が会社に存在するのであれば、この機会に「それぞれの手当の目的」を再確認し、その目的を踏まえて、同じく4/5にするかどうかを検討してみましょう。それと同時に賞与や退職金についても、この段階で確認しておいても良いかもしれません。
このあたりのことは、「週休3日制」で従業員を採用しようとしたときに、従業員側が必ず気になるところです。
まとめ
以上、今回は調剤薬局で「週休3日制」を導入する時に確認しておきたい5つのことを紹介しました。これらのことを確認せずに導入してしまうと、結果的に「週休3日制」を選択した従業員が働きにくい職場となってしまう可能性があります。大切なのは制度を導入することでなく、しっかり運用し、制度を継続していくことです。そして「週休3日制」を選択した従業員が働きやすい会社にすることです。そうすることで結果的に多くの従業員が働きやすい会社となり、会社の成長にも繋がっていくのではないでしょうか。
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